1. トムソン・ロイター
  2. 【日本法総合オンラインサービス Westlaw Japan】法情報サービス活用シーンの変化を中央大学佐藤信行教授に聞く

【Westlaw Japan】リーガルリサーチ

中央大学

法情報サービス活用シーンの変化を中央大学佐藤信行教授に聞く

トムソン・ロイター株式会社は、法情報の分野では、日米を中心に世界各国のリーガルコンテンツおよびソリューション・ソフトウェアを総合的に、教育/研究機関、企業、法律事務所、官公庁へと幅広く提供してきた。今回は、法曹界に長く人材を輩出してきた中央大学法科大学院の佐藤信行教授に、実務家養成と研究の両側面における法情報サービスの活用動向の変化についてお話を伺った。


──法科大学院をとりまく環境は、2004年(平成16年)の制度開始から現在に至るなかで、大きく変化してきたと思います。実際に対応される中で、これらの変化をどのように捉えておられますか?

佐藤:法科大学院制度創設の目的は、旧司法試験時代の反省から、受験勉強に偏らず法曹となる過程をつくることで、法曹の量と質を同時に向上させ、社会における法的サービスの向上の基盤構築を目指すというものでした。量的には合格者数を年3千人へと増やす一方、法科大学院修了者の司法試験合格率を7~8割とすることで、安心して試験科目以外の科目や実習・演習等を受講し、法学以外のものであっても、実務で必要な広い教養や専門性を身につけた法曹を多く生み出そうとしたのです。

しかし、2024年の結果を見ても、合格者数は1,592名と旧試験末期とほぼ同程度、出願者比の合格率も42.13%に留まっています。数字の達成が自己目的化してはならないとはいえ、少なくとも、当初の目標とはかけ離れています。当初一定の割合で在籍していた社会人が減り、学部からストレートで入学してくる学生の率が増えていることは、広い教養や専門性を備えた法曹の供給元である社会人にとっては、時間とコストに見合わないと判断されているのだと思います。

他方で、この間、多方面からの批判と共に分析もなされ、制度全体についても各法科大学院においても、数々の改革が施されてきました。その中でも成功しつつあると評価できるのは、法学部での教育と法科大学院教育を連続的に捉え、5年の法学教育で司法試験を受験できるようにしたことです。また、法科大学院3年次在学中の7月に受験できることも同じく評価できると思います。

──いわゆる「3+2」ですね。学部での年数が1年減ることについての影響は無いのでしょうか。例えば、在籍の短期化で、より詰め込み型になったりしないものでしょうか?

佐藤:学部教育の早い段階で法曹に進路を定めている層に対しては、合理的な制度と考えています。中央大学法学部に入学した学生の多くは、公務員や一般企業へ就職していますが、早い段階から法曹に進路を絞っている学生もいます。最終的に法曹を目指す層は、年200名程度で、これは旧司法試験の時代からさほど変化していません。

学部が担う法学教育は、法曹に限らずどのキャリアを選択するにしても、法学を学んだ者の素養としての基礎的な法解釈のスキルを身につけた上で、各自が目指すキャリアに応じた知的な準備を施すことであろうと思います。

「3+2」の下では、基礎的な学習の先に、法のプロフェッションとしての期待に耐えるべく、高度かつ応用的な法解釈能力獲得に向かう層と、各論的な法解釈・運用をプロに任せるために必要な共通言語としての法能力を得た後は、それぞれが目指す立場や分野に関する知識や経験獲得を目指す層とに分かれていくことになります。前者のプロフェッション教育は、まさに法科大学院において施すべき内容といえますから、基本的な法学学習が終わった時点で、学部から法科大学院に学修の場を移せばよいと考えられます。ですので、インプットするべき総量が同じで期間が4分の3になるから、その分、急いで詰め込まなければならない、ということにはなりません。

もちろん、法科大学院への進路は、法学部を3年で卒業した学生だけではなく、通常どおり4年で卒業した学生にも開かれており、量的にはこちらが多数です。ですから、必ずしも、学部入学時点までに進路を確定させておく必要はない、ということは付言しておきたいと思います。

──法学部在籍中の学生に必要な法情報のツールというのはどういうものでしょうか?

佐藤::学部段階での学びに求められるのは、まずは、法知識の基礎を固めることです。具体的には、体系的に構成されている授業に沿うこと、つまり、教科書、副読本、判決文、参考となる論文等教員から指示された資料を「読める」状態にして臨むことが重要です。そこで、学修上必要な資料を包括的に含む「アーカイブ・ツール」としての法情報サービスの存在が必要になります。かって判決全文を読むためには、まずは登校して、図書館の閉架書庫から判例集を取り出してもらい、コピーをとる、といった長い準備作業が必要でしたが、法情報データベースを利用すれば、自宅ですぐにこれにアクセスすることが可能です。

──「3+2」とあわせて、在籍中に「修了見込」での受験が可能になりましたが、こちらの影響はいかがでしょう?

佐藤:3年次7月在籍中の受験資格付与は、法科大学院の本来的な目的に照らしても、非常に有益に感じています。従来の制度は、法科大学院修了で受験資格を得て、換言すれば、全ての授業科目履修後の5月に受験し、9月の合格発表まで不合格の場合を考えて、引き続き受験勉強期間を過ごすというものでした。新制度では、試験日の後も法科大学院に在籍していますから、約8か月間、試験科目以外の授業や演習を受講することができます。8か月といえば、夏休みを含め1学期以上ですから、「受験勉強に偏らない」科目履修を可能とするこの期間がもたらすメリットは、学生にとって極めて大きいものだと思います。中央大学法科大学院では、海外研修プログラムである「Study Abroad Program (SAP)」を開講しており、約10日間イギリスのダラム大学ロースクールとミドルテンプル法曹院で学びますが、この8か月の存在により、同プログラムへの参加者も増加しています。また、2023年度参加者は、2024年度までに全員が司法試験に合格しています。

また、3年次の夏以降の学生は、司法試験を受験する程度には、高度に法解釈を行えるようになっているわけですから、法的課題解決への実践的手法を身につけ、専門性や応用性を高める期間としても極めて有用です。中央大学法科大学院では、この期間中に「テーマ演習」「研究特論」といった科目を履修する学生が多いのですが、後者では修士論文相当のリサーチペーパーの提出を求めています。この期間中の「調べもの」は、学部時代と異なり、研究的手法を要求されることになります。

──研究的手法というお話が出ました。この点、数十年前から法情報データベースを用いた「リーガルリサーチ」の授業を担当してこられた佐藤先生にツールの有用性を改めてお伺いしたいのですが。

佐藤:当然ですが、学部段階での学修のように指定された特定資料の読み込みだけでは、リサーチペーパーのレベルは満たせません。まさに、法的課題を発見し、それを解決するための「調査研究」が要求されます。例えば、ある制度全体を調べるには、中心となる法律を自ら特定し、その下位法令への委任関係を漏れなく捨い上げ、制度の変遷を明らかにするための過去法令の調査等も行うことになります。もちろん、法令調査に留まらず、判例や、先行研究の調査も同様に行わなければいけません。

ツールとの関係においては、広範な範囲の資料を検索できるシステムが必要ですが、ただ単に情報量が多ければ良いということではありません。専門的観点からの法情報整理を行うツールである「サイテータ(citator)」機能が実装されている法情報データベースを発展させ、また、使いこなすことが求められます。例えば、法令を時系列で追うことができる仕組みは、過去の判例で解釈対象とされている法令を特定する仕組みと連動していることが必要ですし、判決の引用関係のみならず被引用関係を調査する仕組みも必要です。

もう1点、外国法との比較研究のツールとしても法情報データベースは重要です。法の分野では、いわゆる「社会実験」を行うことが極めて困難です。例えば、死刑制度の犯罪抑止力を検証するために、試みに3年間死刑制度の運用を停止する、というような社会実験は許されません。そこで法律家は、外国のケースやそれに対する評価を通じて検証を行うというアプローチを多用します。日本国内にいながらにして、一次法資料(法源)にも二次法資料(論文等)にもアクセスできる外国法データベースというのは、非常に有用です。

リーガルリサーチを学びまた教えるものとしては、Westlaw Japanのような日本法情報データベースとWestlawNext (Westlaw Classic)のような外国法情報データベースの実装が、相互に有機的に連動する形で発展することを大いに期待しています。

──学部学生の皆さんには広範なコンテンツ収録によるアーカイブ性を持つサービスとして、また同時に、法曹となるべく学ぶ法科大学院生の皆さんには実務に繋がる調査研究を支援するサービスとして、今後も法情報サービスを提供していきたいと思います。ありがとうございました。


佐藤信行(さとう・のぶゆき)

中央大学
副学長 / 教育力研究開発機構長
法科大学院教授

ぜひWestlaw Japanをお試しください。