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THOMSON REUTERS Legal Tech 特集

JT の法務改革とリーガルテック~テクノロジーで進化する法務機能の現在地

企業が直面するリスクが多様化する中、法務業務が企業経営や成長戦略に果たす役割はますます大きくなっている。しかし、企業法務は人材 不足やコスト削減、コンプライアンス強化など様々な課題に直面しており、それらを解決するためのソリューションとして「リーガルテック」が 注目を集めている。2022 年 1 月にたばこ事業の本社機能をスイス・ジュネーブに統合した日本たばこ産業(以下、JT)は、2023年 9 月にトムソン・ ロイターが提供する法務ソリューション・Legal Tracker を導入・活用を開始した。その狙いと手応え、今後の展望についてJTの日本マーケット(た ばこ事業)で法務を担当する稲村 誠氏に話を伺った。


トレンドに先んじてリーガルテックを導入。 その理由は?

──まずは、御社の法務部門の体制について教えてください。

JT は、➀たばこ事業部門と➁食品や医療などたばこ以外の事業を扱う コーポレート部門に分かれており、それぞれに法務担当部署が置かれてい ます。現在、JT 単体では➀と➁あわせて約 30 名が法務関連業務を担当、 グループ全体では全世界に約 250名の法律専門家が在籍しています。

──JT では、日本でまだ DX という言葉が浸透していなかった 2018 年に、 いち早くリーガルテックを導入されました。以来、どのようにリーガルテッ クを運用してきたのでしょうか?

これまでを振り返りますと、JT におけるリーガルテックの活用は大きく 分けて2段階に分けられます。第 1 段階が始まったのはおっしゃるとおり 2018 年で、この年に当社としては初めて AI 契約書レビュー支援ツールを 導入しました。この時点では本当にリーガルテックが業務に役立つかどう かは未知数。「よく分からないけど面白そうだし、うまくいけば業務が楽に なるかも」という興味本位で導入したというのが正直なところです。そして 2018 年以降は、法律相談用プラットフォームや法律図書のオンラ イン・サブスクリプションサービスなどを順次導入、リーガルテックによる 業務効率化を進めてきました。なお、偶然ではありますが、このタイミン グで法律図書のサブスクリプションサービスの利用を開始していたことが、 数年後にやってきたコロナ禍における円滑な事業継続に、大いに役立ちま した。法律相談用プラットフォームについては従来の方法、つまり各事業 部門の担当者から法務担当者にメールベースで相談する方法では、法務 部門全体にとっての知見の蓄積が難 しいという問題意識を背景に、採用・ 導入に踏み切ったものです。現在は 各部門からの相談、我々のチームか らの回答も全てこのプラットフォーム 上で行うことによって、やり取りをデー タ上に保存・蓄積・可視化、貴重な 知見の集積としてチーム、ひいては JT グループのサステナビリティ向上に 活用しています。とはいえ、これらは 後になって見いだしたリーガルテック のメリットであり、2018 年当時は「リー ガルテック=業務効率化のための手 段」という単純な認識からのスタート でした。

──その認識は、いつ頃どのように変化したのでしょうか?


リーガルテックによる業務効率化が定着した 2022 年ごろから、JT にとっ てリーガルテック活用の第2段階が始まったのではないかと考えています。 第1段階では、業務効率そのものがリーガルテックの主な目的だったのに 対し、その年くらいからは「業務効率化で生まれた時間をどのように利活 用するのか?」という観点から、リーガルテックの活用を検討するようにな りました。つまり、事業への インパクトが大きく、かつテ クノロジーでの代替が困難 な業務にメンバーが注力で きる環 境の構 築のた めに、 リーガルテックを生かそうと いう発想が生まれたのです。

「業務効率化」の先に見据える、リーガルテック の真の目的とは?

──第2段階では単なる業務効率化に加えて、「法務パーソンによるサービス の付加価値+事業への貢献度向上」が求められるようになったのですね。

そうですね。「社内における法務の存在感を高めていく、影響力を発揮 するための手段としてテクノロジーをどう活用するか」という発想に基づい てリーガルテックを採用する傾向が、ますます高まっているように感じてい ます。現在では複数のソフトウェアを契約し、種々のリーガルテックサービ スを利用していますが、同時に社内でも独自の取り組みを進めています。 2023 年の夏~年末にかけては、社内の IT 部門と連携して生成 AI、 ChatGPT の活用にもトライしました。具体的には、チームで蓄積したデー タを ChatGPT に読み込ませることによって法務相談プラットフォームの進 化を試みたのですが、当時はまだ ChatGPT の技術的な到達点が 3.5 程度 だったこともあって、法務という専門性の高い業務に活用することは難しく、 結果的にはうまくいきませんでした。各部門から法務部に寄せられる相談 内容とその回答を、主語述語を揃えた Q&A 形式にした上で読み込ませれ ば精度が上がるのかもしれませんが、それには膨大な準備作業が伴いま すので、業務効率化の観点からも本末転倒になってしまいます。結局、 ChatGPT に関する取り組み自体は中止ということになってしまいました。 しかし、この取り組みが完全に無駄だったかというと、決してそうではなく、 外部のベンダーさんから提案される生成 AI を活用したソリューションの採 用を検証する際の判断基準が明確になったという点では、非常に有益な取 り組みであったと考えています。

今後は「統合型プラットフォーム型サービス」が リーガルテックの主役に

──今後のリーガルテック活用についてどんな展望を描いていますか?

法務部門にとっての一番の課題は、リーガルテックの活用によって得ら れる大量のデータをどう利活用するかということです。得られたデータを正 しく読解し、それに基づいて課題を解決するという戦略的な思考を持ち込 めるかどうかが、法務パーソンに求められています。例えば、これまでは法改正や相談内容のトレンドなどを踏まえた、定性 的な感覚や判断によって人員の配置や予算獲得をするのが一般的でした が、今後はデータ解析によってより定量的な形、あるいは事後により検証 しやすい形に変革していく必要がありますし、間違いなくそうなっていくで しょう。その意味、私は個人的に、今の日本のリーガルテックには一種の「踊 場感」があるように思っています。特に AI による契約書レビュー領域に関 しては、ここ数年の間に非常に多くのサービスが生まれて競争が激化した ために、サービスのレベルが大きく向上し、法務の実務に十分耐え得るレ ベルに達していますが、実はこれは世界的に見ても非常に稀有なことです。 実際、JT グループは世界 130 か国以上に展開していますが、日常的に AI 契約書レビューを活用している国は、おそらく日本だけでしょう。他国の場 合は CLM(コントラクト・ライフサイクル・マネジメント)が先行していて、 グローバル企業でも CLM を採用しているケースがほとんど。CLM よりも AI コントラクトレビューが先行した日本は世界的に見て非常にレアなケースと 言えますが、それは結果として良かったのではないかと私は考えています。 しかし、ここ数年の AI コントラクトレビューのトレンドが今後も続くのかど うかというと、正直分かりません。個人的には、今後は生成 AI コントラク トレビューから統合型のプラットフォーム型サービスに、主戦場が移行して いくのではないかと見ています。ユーザーの立場からみても、これは非常 にメリットの多い変化であり、個人的にも歓迎しているのですが、ここで注 意しなくてはならないのは AI リーガルチェックの主戦場の変化や拡大の動 きが、あくまでもベンダー主体で行われているに過ぎないということ。つま り、ユーザーである各企業の法務パーソンが置かれている状況にマッチし ているかというと、必ずしも YES と言い切れないのが現実だということです。 例えば、既に普及しつつある AI コントラクトレビューについても、本当に 必要なのかどうか検証されないままに導入されているケースが少なくあり ません。実際、「流行っているから導入してはみたけれど、あまり効果を実 感できなかった」、「自分たちの業務に合っていなかった」という意見も聞 かれます。この問題は、プラットフォーム型サービスへの移行が進んだ後 にも、依然として残るのではないかと懸念しています。

弁護士・事務所・類型ごとのコスト比較を可能 にした Legal Tracker

──リーガルテックを取り巻く環境が目まぐるしく変化しつつある中、2023 年 9 月にはトムソン・ロイターが提供する電子請求・案件管理ソリューション 「Legal Tracker」をご採用いただきました。どのような経緯・目的があっ たのでしょうか?


JT では 2022 年 1 月に、グローバルでの競 争力強化を目的に、主力事業であるたばこ事 業の本社機能をスイス・ジュネーブに統合しま した。我々日本にある法務チームについても、 「ジュネーブにいるイギリス人のジェネラル・カ ウンシルのもとで、日本法務を担当するチーム」 という位置づけになっております。従って、今回 の Legal Tracker についても私たち日本チーム ではなく、グローバルのリーガルチームの主導 により、全世界で導入が進められました。導入 の最大の目的は、コストの最適化です。ご存じのとおり、グローバル企業 は一般的に日本企業よりもコスト管理がシビアですが、それは必ずしもコ ストカットを目的としたものではなく、限られた経営資源をより最適に配分 して有効活用したいという発想に基づいています。Legal Tracker について も同様の発想に基づいて選定・導入されたもので、現在は JT の世界中の 拠点で Legal Tracker を活用した業務効率化と、コスト管理の最適化が行 われています。これにより、JT グループは世界中のコストを同一のプラット フォーム上で確認できるようになり、大幅な業務効率化を実現することが できました。

──日本の法務チームにおいては、Legal Tracker をどのように活用してい ますか?

日本の法務チームでは、2023 年 9 月から Legal Tracker を導入してい ます。これまで JT では、多くの日本企業と同様に、お取引先の弁護士事 務所から毎月紙で請求書を受け取り、その請求書に基づいて相談料をお 支払いしていました。もちろん、毎月・毎年の相談料の内訳や総額につい てしっかり確認してはいるものの、過去のお支払い実績や他事務所へのお 支払い実績と比較した上で、現在のコストが適切かどうかを検討すること は容易ではありませんでした。  Legal Tracker 導入後は、請求・支払いの金額や内訳がデータとして蓄積・ 可視化されるので、時期や取引先ごとの比較・検討が可能になります。例 えば、「この案件で、この事務所に支払っている金額は適正なのだろうか?」 という疑問が生じたときにも、過去のデータや他事務所のデータを参照す ることによって、これまで以上に的確な判断ができるようになっています。

──今後、Legal Tracker をどのように活用していきたいと考えていますか?


Legal Tracker は、データドリブンな法務機能強化のための強力なツー ルとなり得るのではないかと期待しています。先ほど申し上げたとおり、 Legal Tracker を使えば法律事務所・弁護士・類型ごとの比較が容易であ るため、コストを適正に評価できるようになります。それはつまり、これま で事務所のイメージやネームバリュー、継続的な関係に基づいて決めてい た取引先を、客観的なデータに基づいて選べるようになるということです。 さらに、コストの根拠をデータで示すことによって、必要なリーガルコスト についての説得力が向上することも、法務部門にとって大きなメリットの一 つです。必要なコストを十分に確保した上で、最適な弁護士・弁護士事務 所と適切な取引できることが法務部門の強化、ひいては法務部門が経営 全体に与える影響力の強化につながるものと期待しています。

テクノロジーを駆使して、経営陣に「解」を示せ る法務部門を目指す

──リーガルテックを活用中、もしくは活用を検討されている方々への提言 をお聞かせください。

企業および企業の法務部門を取り巻く環境は刻々と変化し、将来の姿を 予想しづらい状況に置かれていることも忘れてはなりません。例えば、生 成 AI の登場により、これまで人間が何十年もかけて蓄積してきた情報やノ ウハウがあっという間に集積され、世界中で利用されるようになっている 中、法務人材に求められるスキルも大きく変化しつつあります。少なくとも、 自分の専門分野の知識だけで勝負することは、ますます難しくなっていくで しょう。今後、経営層に求められる法務人材は、法務上の専門知識を使い ながら論点を整理、社内外から必要なリソースを集めて課題を解決し、ビ ジネスを前に進めるための「解」を経営層に提示できる人材です。そのた めにも、法務パーソンは常にテクノロジーの進化に敏感であるべきです。 特に生成 AI の進化は非常に早く目覚ましいため、数年以内に従来の法務 業務に破壊的な影響をもたらす事態が起こりかねません。その場合に、ど んな人材が求められるのかを常に頭に置いて、私たち自身も進化し続けて いかねばならないのです。

このように申し上げると、法務パーソンの未来は暗いかのような印象を 持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、私自身全くそうは思いません。 むしろ、テクノロジーの進化に伴って、法務パーソンの未来はこれまで以 上に輝かしいものになると考えています。生成 AI など新たな技術を使いこ なすことができれば、我々法務パーソンは能力を拡張させ、経営層への影 響力をさらに高めることができるからです。つまり、テクノロジーの進化は、 法務パーソンにとって活躍の場を広げる大きなチャンスでもあります。トム ソン・ロイターには、是非グローバル市場で得られた知見をユーザー企業 に共有することを通じて、法務部門の戦略的な機能向上をサポートしてい ただきたいと期待しています。

ぜひLegal Trackerをお試しください。